Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

市川崑監督作品『獄門島』

 

横溝正史『獄門島』を2作見終えました。

先に見たNHK 長谷川版は、金田一耕助をエキセントリックに描いているものの、

本筋は原作に忠実に作られていました。

それに比べて、市川崑作品 石坂版 ( 以下、市川版 ) は、凄いことになっていました。

 

犯人が原作と違ったのです

推理小説は、伏線・犯行の種明かし・犯人当て ( 含 犯人の動機 ) が命です。

金田一シリーズでも、一番人気と言われたのは、原作者の練りに練った仕掛けを

読者が《面白い》と思ったからだと思います。

 

ところが、市川版は、その犯人をあっさり作り変えてしまいました。

これには驚いた読者も沢山いらしたでしょう。

いいのかこれで」と、私は思いました。

 

でも。

いいんです、きっと。

だって原作者がニコニコ楽しんでいるんだから。

 

公開当時の新聞広告⤵

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右端に横溝さんの顔写真。その下に「私も犯人の名前を知りません」とあります。

拝借しました⤵

 

YouTubeで当時の宣伝を見たら、冒頭にも横溝さんが登場されています。

 「金田一さん、実は映画の中の犯人を知らないんですよ」⤵

 

笑顔で宣伝活動に駆り出されている横溝さんを見ると、

氏の太っ腹さに何もいうことはなし。 

 

 

《犯人を変える》ということは構築された筋書き、犯行の手順も狂ってきます。

原作を読まれた方は、冒頭の手紙 ( 紹介状 ) のシーンを覚えていらっしゃるでしょうが、

映画は、そこからして変わっています。

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原作では、

戦地に行った金田一耕助が、引き上げ船の中で戦友・鬼頭千万太から紹介状を手渡され、「俺が帰ってやらなければ3人の妹が死ぬ」と言われる。

紹介状の宛先は、鬼頭家ではなく、島の三長老 ( 和尚・町長・医者 ) 宛てだった。

金田一が獄門島に来た理由は、

彼自身の静養と、千万太の最後の願いである妹たちをまもるためだった。

 市川版では、

鬼頭千万太を看取ったのは金田一ではなく、金田一の友人の雨宮。

金田一は戦争にとられてはいない模様。

千万太の最後の言葉を聞いた雨宮が島に来る予定だったが、彼も病気の為、金田一が雨宮に頼まれて島に来る。

金田一は依頼捜査ということらしい→ラストで探偵料は雨宮から貰うというセリフあり

金田一が持参した紹介状の宛先は、三長老ではなく了然和尚宛てだった。

 

この結果、三長老への手紙という伏線もくずれ、

俳句の意味、鬼頭家当主義衛門の臨終の意味を成さなくなります。

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原作の深く入り組んだ人間関係をシンプルにして、

原作にはない登場人物を置き、『何が起こるんだろう』というのが映画化のテーマのようです。

 

エンターテイメント性はバッチリ

オリジナルは滅茶苦茶にぶっ壊しましたが、市川監督はエンターテイメント性豊かに仕上げました。

 

司葉子、大原麗子、太一喜和子

美人女優の競演です。

 

加藤武、大滝秀治、三木のり平

市川作品に、なくてはならない顔ぶれも集結した。

 

原作では床屋の親父だけだったシーンに娘役として坂口良子も参戦!

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マスコットガール坂口良子さんと石坂さんとの絡みは、重い映画を和ませてくれます。

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このキャスティングを今やろうと思っても出来ないでしょうね。

大原麗子さんも、太一喜和子さんも一番美しくて乗りに乗ってる時期でした。

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こんな目で「叔父様」って見つめられたら、大人しくもなりますわ。

 

原作よりも膨らんでいる役が、分鬼頭の嫁のと鬼頭与三松の妾のお小夜でした。

巴は太一喜和子さんが熟演

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いやあ、色っぽい。

この着こなし、この仕草、

流石は杉村春子さんが《自分の後継者》と愛した女優。

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こんな色っぽい女優はもう出ないだろうなぁ。

巴ねえさんの後ろでシュンとしてるのは、ピーター。

彼の鵜飼役も適任でした。

 

喜和子さんもいいが、この人には驚いた

この映画で最も驚いたのは、草笛光子さんの演技でした。

お小夜は、与三松の妾で三人の娘の母親ですが回想シーンでしか登場しないので、

大きくも小さくもなる役です。

そのお小夜を、市川監督は大きく扱った。

 

草笛さんの京鹿子娘道成寺のシーンは圧巻です

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ええっ? 草笛さんといったらSKD。

洋舞はお得意だとは思うが、日舞もこんなに巧いんだ 

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ひと踊りして、楽屋に帰ってくると、与三松がいる。

与三松はお小夜に首ったけ

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「弟の吉梅さんもあないなことになったんや、こっちの言い分を通すのは、今が潮時ですよ」

帯を解き、化粧を落とす 流れるような動作の中、お小夜は恐ろしいことを言う。

あてが念じ殺したんや

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太一喜和子さんと草笛光子さんは、

横溝正史のどろどろとした金田一の世界を見事に描いてくれました。

 

それに引き換え・・・・といったら失礼だが、、、

了然和尚の佐分利信さんは悪声の上、活舌も悪く大事なセリフが聞こえない

「きちがいだがしかたがない」( ´艸`) 金田一さん聞きそびれたかも

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司葉子さんは、原作にはない役だったからやりにくかったかも知れない。

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でもいいんです。

彼女は綺麗なだけでいいのです。

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昭和の映画界の主役は、色々なことをしてはいけません。

主役は、スクリーンの真ん中に立っていればいいのです。

あとは脇役が固めてくれるのです。

 

映画の彩、世界感、深み、アクはすべて

鬼頭家先代当主の東野英治郎 ( 俳優座 ) さん

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分鬼頭当主・儀兵衛役の大滝秀治 ( 劇団民藝 ) さんや

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床屋の清十郎役の三木のり平 ( 喜劇界の重鎮 ) が担ってくれる。

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今、売り出しの若手さんも頑張ってるし。

三人の妹たちの一番上、月代役には浅野ゆう子さん

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司葉子さん演ずる勝野の少女時代には、

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小さい少女時代に荻野目洋子さん、大きい少女時代に荻野目慶子さんが起用されてました。

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こんなサービスショットに若手を起用できるのも、東宝映画だからでしょう。

 

サービスショットといえば、冒頭の三谷昇さんも愉しかったです。

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こういうのが70年代の映画の見所で、それがヒットにつながるのでしょうね。

「金田一といえば、石坂浩二さん」というファンも多いのが頷ける第三作でした。

 

参考にさせていただいたHP

映画の殿 第35号 市川崑「横溝正史シリーズ」03 – ROCKHURRAH WEBLOG

 

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Marcoの与太話

昨日、ここまで書いてアップしようとした途端にパソコンが固まって、

書いたものが全部飛びました。

あまりのショックで昨日は更新できずに寝込んでしもた

これは今日、書き直したものでふ