瀬尾まいこ著 『夜明けのすべて』を読了
【あらすじ】 HPより
知ってる?
夜明けの直前が、一番暗いって。
「今の自分にできることなど何もないと思っていたけど、可能なことが一つある」
職場の人たちの理解に助けられながらも、月に一度のPMS ( 月経前症候群 ) でイライラが抑えられない藤沢美紗は、やる気のないように見える転職してきたばかりの山添くんに当たってしまう。
山添君はパニック障害になり、生きがいも気力も失っていた。
互いに友情も恋も感じていないけれど、おせっかいな者同士の2人は、自分の病気は治せなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになるーー。
人生は思っていたより厳しいけれど、救いだってそこら中にある。
生きるのが少し楽になる、心に優しい物語。
主人公 美紗の周辺
藤沢美紗が栗田金属で働き始めて、今年で3年になる。
栗田金属は、雨どいや瓦などの建築資材や、釘や針金などの金物をホームセンターや商店に卸す社員6名の小さな会社で、社長の栗田さんは68歳で、美紗の病気を承知の上、鷹揚に受け止めてくれている。
美紗と一緒に事務をしている住川さんははきはき物を言う人ではあるけれど、そこにはたいした意味はなく世話好きで悪気のない人だ。社員も60歳前後のおじさんで、平岡さんはおしゃべりでいつもみんなを笑わせてくれるし、鈴木さんは黙々と作業をするけど不愛想なわけではなく優しい人だ。先月入社した男の子に至っては穏やかなのを通り越してぼんやりしている。
もうひとりの主人公 山添君の事情
山添君は、ここに来る前にコンサルティング会社に勤めていた。
前の会社では期待の新人として可愛がられていたし、明るく仕事もできた山添君には恋人もいて、公私ともに順調な生活だった。
ところがある日突然 彼に病魔が襲う。パニック障害だった。
狭いところもダメ、電車にもバスにも乗れない。いったん発作が起きると失神してしまうこともあり、彼は恋人と別れ 会社も辞めた。心療内科に通い、薬を飲んでも、いつ発作が起こるかわからない。
前の会社での生き生きした働きぶりとは一変、栗田金属での山添君は、だましだまし日々を送る無気力な状態だった。
山添君の災難
山添君が栗田金属にやってきてひと月ほどたった頃、彼に災難がふりかかる。
シュパッ。
またいつもの音だ。目をやると、山添君がペットボトルの炭酸飲料を飲んでいるのが見えた。炭酸の空気が抜ける音って、耳につくな・・・。あれ? こんな小さな物音が気になるなんて。
私はカレンダーを確認した。十一月七日。もしかして・・・。
「炭酸飲むのやめてほしいんだけど」と私の口から勝手に言葉が出ていた。
「はい・・・」離れた席から山添君がぼんやりとうなずく。
「その音、すごく耳につくし」
山添君などほうっておけばいいのに、私はまだ言葉をつづけていた。落ち着け、落ち着け。まだあの日じゃないのだから、おさまるはずだ。
キレちゃうんですね、藤沢さんが。
彼女はPMSという重い月経前症を抱えていて、生理前には神経が高ぶりキレてしまう。
前の会社もこの病気でいられなくなった。
栗田金属には、面接の時病気のことを打ち明けて雇ってもらった。
社長をはじめ、社員も藤沢さんの病気に理解を示し、月に一度の御乱行を看過してくれていた。
だが新入社員の山添君は彼女の事情を知る由もなく、怒りの的になってしまった。
驚いたでしょうね、山添君は。
平素は明るく、てきぱき仕事をこなす藤沢さんに、炭酸を飲んでいただけで怒鳴られたんだから。
2人は同じ薬を飲んでいた。
山添君に恐れていたことが、、、会社で発作が起きてしまったのだ。
「薬、薬・・・・」
バッグに入れたハズの薬がない。
山添君が落とした薬を拾ったのは藤沢さんだった。
薬は、藤沢さんが精神のバランスを欠いた時に服用するものと同じだった。
今 目の前で発作を起こしている山添君を見て、薬を落としたのは彼に違いないと思った。
「山添君、パニック障害なの、、、かしら」
私に出来ることは何かないだろうか
山添君の髪がいつもぼうぼうに伸びているのは、病気のせいに違いない。
藤沢さんは、床屋に行かれない山添君の髪の毛を切ってあげようと思い立ち、
ハサミとケープを持って山添君のアパートに行った。
またまた驚いたでしょうね、山添君は。
いきなりやって来て、ズカズカ上がり込んだ藤沢さんは「髪切ってあげる」と言う。
美容師免許でも持っているのかと思ったが、まったく心得はないという。
案の定、藤沢さんに切られた髪の毛は左右の長さもバラバラで、ひどい仕上がり。
大笑いするんです、山添君は。
普通は怒るか、泣くかでしょう?
でも山添君は、鏡に映った自分を見て笑いだしました。
「こんなに笑ったのはひさしぶりです」
とんちんかんな二人の関係
お互いに自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになった。
瀬尾まいこさんの作品は、ぶっ飛んでいる。
先月 読んだ『そして、バトンは渡された』でも感じたが、瀬尾さんの世界は実にぶっ飛んでいる。
登場人物が「ええーっ」と思うほど意外な行動に出る。
いきなり髪の毛を切ってあげようと思い立つ藤沢さんもオカシイし、
髪の毛を切られて大笑いする山添君もオカシナ人だ。
もうひとつ、こんなシーンに私は腹を抱えて笑った。
藤沢さんがPMSという病気だと知った山添君は、以前 炭酸でキレられた日から換算して、今日あたりにまた発作が起こるとあたりをつけると、藤沢さんの手を引っ張って、会社の隣の隣にある空き地に連れ出した。
「藤沢さん、少しだけ 1人で怒っておいてもらってもいいですか? 飲み物買ってきますから」
「は? 1人で怒っておくってなんなのよ。突然、外に連れ出されたら、誰だった腹が立つでしょう」
「でも、寒いですよね?」
藤沢さんは大声を張り上げながらも、悲しいのか、目が潤んでる。
きっと感情がめちゃくちゃなのだろう。
「飲み物買ってくるんで、その辺の雑草抜いといてください。草引っぱっていたら
すっとするかも知れないし」
私の若い頃は、生理の話なんてタブーでした。
私はこの作品で、PMSという病気を初めて知った。
昔だって、女性が生理前にイライラしたりするという症状はあったが、それは人には気づかれたくないようなことだった。
そんな女性の症状 ( 月経痛や、更年期、産後などに見られる諸症状 ) を、昔は「血の道」といわれていた。
私の母世代より上の女性は月経のことを、男性は勿論 同性にも隠していた。
テレビで「生理用品」のコマーシャルが堂々と流される時代になり、驚いたという。
要するに昔は、女性の月経はタブー中のタブーだったのだ。
ところがこの本では、恋人でも旦那でもない後輩の男性に、月経周期を換算されたりする。
いくら鷹揚な人物でも社長 ( 中年男性 ) に、面接で月経前症候群のことを打ち明けている。
私が古いのか、著者や今の世の中が普通なのかわからないが、ただただ驚いた。
人には言えない悩みは誰にでもある。
人には、なかなか言い出せないような悩みがあるもので、たとえ打ち明けたとして病気の辛さを理解してもらえなかったりするだろう。
快復が困難な ( または長引く ) 心療内科系の病気を抱えている者同士が、
自分のことはさておき何か相手の助けになれないかと奮闘する物語は、感動的だ。
物語は、2人の病が快復する兆しがみえる結末ではない。
だがその方がリアルだ。
そして《人の為に一生懸命やった結果、傍からみると笑えるような行動になってしまう》という切り口は、実は最もリアルなものだと思う。
登場人物に、こすっからい人は1人もいない。
皆が人の痛みに対して優しい人揃いというのは「どうなの?」と思うけれど、
こんな風に、読んで心が温まる話はありがたい。
瀬尾さんは、日々のビタミン剤になるような本を書いてくれる作家さんだ。
本作は映画化され、現在《絶賛上演中》なんだとか。
主演の2人は?
山添君を北村北斗、藤沢さんを上白石萌音が抜擢されている。
おーなんと、NHK朝ドラ『カムカムエブリバディ』の、稔さん&安子のコンビじゃないか。
こちらが映画『夜明けのすべて』 山添君と藤沢さん
映画観にいこうかなあ。
本日の昼ごはん
和定食
ご飯がすすむくん 勢揃い
本日の夜ごはん
先日、助けてください通販で購入した ぶりの刺身 二柵
新玉ねぎはそのままでも美味しいけれど、トマトと合えればドレッシングはいらない
お稲荷さんは、朝炊いたご飯の残りで作ったので、いつもより少量