Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

吉田修一 著『続 横道世之介』

 

『続 横道世之介』を読了。

前作『横道世之介』は1987年を舞台に、大学進学で上京した横道世之介の一年間を描いた小説だったが、二作目は1993年、24歳になった世之介の話だ。

 

就職活動で52社全敗し大学を卒業した世之介は、アルバイトとパチンコにあけくれ、

学生時代からの友人コモロンと毎晩のように飲んで過ごしている。

 

世之介のアルバイト先は、もずく酢やワカメを卸す小さな会社で、社長から可愛がられた世之介は「正社員にならないか」と言われるが、ある問題からあっさり会社をやめる。

 

世之介の住む池袋のマンションの隣室には中国人が住み、日に日にその人数は増えていく。コンビニに行けばイートインコーナーで弁当をつまむ外国人の娼婦たちが、やる気なさそうに「お兄さん、遊ぶ?」と声をかけてくる。

 

 

偶然の出会いから 2人の女性と縁が育まれていく

パチンコ店で新台を奪い合った女と世之介は、理髪店で偶然はちあわせた。

世之介は、浜本というその女が髪を丸坊主にするという儀式に立ち会うことになる。

 

友人コモロンと双眼鏡で覗いた部屋に住む ヤンママ桜子とは、気まずい流れからも付き合うようになり、世之介は息子の亮太からも慕われる。

 

人たらしの世之介

前作から6年経ち、24歳になった世之介の《人たらし度》は更に磨きがかかっていた。

これといった特技があるわけでもないし、気の利いたことを言うわけでもないのに、

嫌味なところがない世之介は何故かみんなに 可愛がられ カマワレている。

 

行きつけの理髪店の理髪師は、ムショ帰りの強面の男だった。

その理髪店で、寿司職人になる決心をした浜本が《髪を丸坊主にする》ということになる際、世之介は強面理髪師から 立ち会うように言われる。

 

一流企業に入社したコモロンは会社に馴染めずに退社、アメリカに行くと言い出した。

コモロンから日当3,000円 ( あごあしまくら付き ) で二週間のアメリカ旅行に付き合えと言われた世之介だが、旅の最期でつまらぬ喧嘩となり、ニューヨークに置き去りにされる。

 

シングルマザーの桜子は小岩の元ヤンキー。実家は父と兄が自動車整備工場を営んでいる。桜子とのドライブに、桜子の兄・隼人から車 ( 紫のスポーツカー ) を借りた世之介は、兄からもカマワれるようになり、やがて整備工場を手伝いだす。

 

世之介を嫌う男

愛されキャラの世之介だが、本作でただひとり世之介を嫌う男がいた。

バイト先の、経理部の正社員だ。

世之介が社長から贔屓にされるのに見て、嫉妬したその男は「経理の金が合わない」「横道は手癖が悪い」などと噂を流す。その話を真に受けた社長は《正社員への話》をご破算にする。

世之介は弁解もせずにサッサとそこを立ち去る。

 

人づきあいの良い世之介が、この時ばかりはグダグダいわずにサッと見切りをつけたのを見て、私は後作『永遠と横道世之介』で世之介が言った言葉を思い出してしまった。

「この世で一番カッコいいのはリラックスしてる人」

経理の正社員の卑劣な行為を見て「チマチマといじましい考えの人間と仕事したくない」つまり「そんなリラックスできないところはゴメンだ」と感じたのではないだろうか。

 

 

世之介の距離感のつかみかた

仲間のピンチに際しての世之介の距離感は絶妙だ。

丸坊主になった浜ちゃん は、寿司屋の修行 ( 男の先輩からの虐め ) でどんどん生気をなくしていく。

最初にそれに気づいたのは強面理髪師で、世之介のこう言った。

あいつほっとくと危ないぞ、様子を見に行ってやれ

ところが世之介はずるずる日々をおくり、結局助けには行かない。

 

敢て行かなかったわけではない、ただなんとなくだったのかも知れないが、振り返ってみると、世之介のそのタイミングや距離感の取り方が、浜ちゃんにとって丁度良かったのではないかと思う。

修行先に駆けつけたところで、世之介が職場環境を良くできるハズもなく、

浜ちゃんは愚痴もこぼさないだろう。

 

コモロンが会社でうまくいかない日々も、世之介は知ってか知らずか、なんとなく毎日一緒に飲んだくれているだけだった。

つまり、世之介は彼や彼女のために何をしたかといえば、《なんとなくそばにいた》だけだ。

 

物語の終盤で、障碍者マラソンの伴走者の話が出てくるけれど、

世之介の人に寄り添う姿を見ていると、伴奏者をイメージさせられる。

相手が頼りにした時には「ここにいるよ」とわかる丁度良い距離で伴走する、

それが世之介なんじゃないかと思う。

 

ランナーと伴奏者の間のロープをガイドロープ ( 絆 ) というらしいが、

絆はピンと張りつめた状態はダメで、ゆるみを持たせる絶妙な加減が大事なのだそうだ。

 

 

世之介シリーズの読む順番

横道世之介は

第一作『横道世之介』

第二作『続 横道世之介』 ( 文庫版は『おかえり横道世之介』に改題 )

完結編『永遠と横道世之介』と続く。

 

三つの話に出てくる人物 ( 両親・親戚以外 ) は、殆ど作品ごとに違うキャラクターに入れ替わっている。

第一作の祥子ちゃんぽい人物が、第二作でよく笑う国連職員として出てきたり、

第二作の桜子の息子の亮太が、第三作の下宿に遊びに来るシーンもあったようだが、

それ以外は意識的にかキャラクターが一掃されている。

 

実は私は、世之介シリーズを完結編『永遠と横道世之介』→第一作『横道世之介』→第二作『続 横道世之介』の順で読んでしまった。

完結編の世之介39歳カメラマンは、18歳の大学生になり、24歳のプー太郎になったから、私の脳内には3人の世之介が別々に棲んでいる。

こんな順番で読む人もそうはいないだろうが、私的には、これもまあよしと思っている。

 

 

本日の昼ごはん

鶏つくり蕎麦

 

 

本日の夜ごはん

右のチヂミみたいなのは、えのきのおやき。

とても美味しかったので後日、レシピをアップします。