吉田修一 著『横道世之介』を読了

【あらすじ、というか世之介の周りに変なひとたち紹介】
1980年代後半バブルの真っただ中。
大学進学のために長崎から上京してきた世之介青年の一年間をつづった物語。
入学式で隣同士になった倉持君や、初めての講義で隣同志になった阿久津唯ちゃんと仲良くなり、流れでサンバサークルに入部。
一足先に上京した従兄の清志兄ちゃんは、故郷 (くに ) にいる時と一変、アンニュイな雰囲気を漂わせ小説家になると言いだすし、一緒に上京した小沢は、マスコミ同好会に入りすっかり業界ずれし始めている。東京はこんなにも人を変えるのかと呆れる世之介も、サークルの石田先輩に紹介してもらったホテルで深夜のルームサービスのバイトに精を出す。
小沢に誘われた店は原宿のバンブーという店で、小沢曰く業界の子が集まる店だという。世之介はそこで片瀬千春に目をかけられ頼まれごとをする。男と別れたいので一緒に来て弟のふりをして座っていて欲しいというのだ。千春はパーティーガールをしているらしい。
「人間違いだ」と拒まれながらもぐいぐい距離を縮める世之介に、加藤君はすっかりいいようにされている。加藤君が抵抗しないことをいいことに世之介は彼のマンションに入り浸り、冷房完備の快適な夏を送っている。
やがて二人は自動車教習所に通うようになるが、加藤君に一目ぼれをした睦美ちゃんからWデートに誘われる。オンナが好きではない加藤君と俄然乗り気の世之介君。
世之介の相手の子は、待ち合わせ場所に運転手付きの黒塗りの車で乗り付けるお嬢様だった。
彼女の名前は与謝野祥子といい、超お金持ちの家の子で浮世離れしている。
初デートの会話がこんな風⤵
「世之介さんって、もう路上教習なさった?」
与謝野祥子が世之介に声をかけてくる。
「え?」
「ですから、路上教習」
もちろん質問の意味は分かっているが気になる所が多過ぎる。
「まだだけど・・・。っていうか、まずその世之介さんってやめてよ。なんか唐傘とか作ってる浪人みたいじゃない?」
「ハーハッハッ。まぁ、浪人なんて。ハー、可笑しい」
「ねぇ、いつもそんな丁寧な口調なの?」
驚く世之介に前を歩いていた睦美が振り返り
「ごめんね。でもすぐ慣れるから」と代わりに謝る。
「いやだ、睦美さん、慣れるなんて、それじゃまるで・・・」
中途半端な所で切られたので、返事を待つ世之介たちの足が乱れる。
「・・・ちょっと、まるで何よ?」
耐えきれずに訊き返した睦美に、
「あら、ごめんなさい、先が浮かばなかったのよ」と祥子がしれっと応える。
吉田修一 著『横道世之介』p.130より
世之介のアパートの隣には胡散臭い人が住んでいるらしく、ヤクザが訪ねてきたり、目覚まし時計が鳴りやまなかったりする。
もうひとつ向こうの住人はヨガのインストラクターをしている小暮京子さんで、入居初日からシチューを御馳走してくれたりと世之介を可愛がってくれる。
やがて倉持くんと阿久津唯さんが出来ちゃった結婚して大学を去る。
ひょんなことから隣の住人は室田恵介といいフォトグラファーだとわかった。
室田さんの作品を見た世之介はカメラに興味を抱くようになる。
以上が主な登場人物と、世之介18歳の出来事である。
その18歳の話の間に、登場人物の20年後がはさまっている。
娘が恋人を連れて来るほどの歳になった倉持・唯夫婦の話や、
高層マンションで男性と住み初めている加藤君の話、
そして国連の職員としてアフリカの難民キャンプで働いている祥子さんの話などである。
物語は、20年後、報道カメラマンとなった世之介の話でくくられている。
愛すべきキャラで、さまざまな出会いと笑いを引き寄せる世之介らしい話だった。
映画と小説
いつも私は映画やドラマを、原作があるならそれを読んでから観るようにしている。
だが今回はいつもと違い、映画のあとに小説を読んだ。
さらにその小説も、続編にあたる 40歳の世之介の物語『永遠と横道世之介』を読み、
それから『横道世之介』と逆読みをした。
映画と原作と、原作の続編とどれが良かったかというと、個人的には『永遠と横道世之介』だった。
40歳の世之介が自分の歳に一番近く親近感があったからだろう。
例えば、ある小説を10代の時に読んだ時には10代の主役に感情移入をし、大人になって読み返すと主役の親が気になる、そんな心理だと思う。
40歳の世之介の方が、18歳の彼より人生を歩んだ分だけ、厚みや趣きや軽さや明るさや、色々な面で魅力的な男に育っていた。
二人の世之介を比べると、極端にいえば同一人物にみえなかった。
正直いうと、最初は『横道世之介』に違和感もあった。
だが二回読み返すると、随所に40になった世之介の本質というか、卵というか欠片のようなものが見え隠れしていることに気づいた。
祥子さんはスゴい
祥子さんの人を見る目はスゴいと思った。
初めて世之介を家に連れていき、父親に「見込みのある男か?」と詰問されると、
祥子さんは毅然としてこう言う。
「あるに決まってるじゃない。世之介さんはね、私がこれまでに会った誰よりも見込みがあります!」
世間知らずの祥子さんがそう言っても説得力もないなぁと私は苦笑したが、父親は違う反応をする。
「お前が見込みがあるっていうなら、それでいい」
難民キャンプで同僚のシルヴィに
「ショウコが好きになるくらいだから、きっと立派な人だったんでしょうね」
と言われて祥子さんは言う。
「立派?ぜ~んぜん。笑っちゃうくらいその反対の人」
「ただね、ほんとになんて言えばいいのかなあ・・・いろんなことに、
『YES』って言ってるような人だった」
18歳の世之介のことも、20年後の世之介の素敵なところも想像できる祥子さんは本当にスゴい女性だと思った。
《横道世之介シリーズ》には死生観が見事に描かれている
世之介のこともしかり、続編の世之介の恋人・二千花もそうだが、
亡くなってしまった人が、どのように生きたかを共に生きた人に語らせている。
例えば続編の恋人・二千花のことを和尚さんがこう言っている。
「 ( 人は ) 死んでも、世の中はそれまでと変わらずに動いていきます。 ( でも ) 同じように見えても、やっぱり少し違う。それがね、一人の人間が生きたってことですよ」
今回も加藤君がこんなことを言っている。
世之介と出会った人生と出会わなかった人生で何かが変わるだろうかと、ふと思う。たぶん何も変わりはない。ただ青春時代に世之介と出会わなかった人がこの世の中には大勢いるのかと思うと、なぜか自分がとても得をしたような気持ちになってくる。
吉田修一 著『横道世之介』p.188より
面白くて、くすって笑えて、それだから余計にジーンとくる名作だと思った。
本日の昼ごはん
サッポロ一番の塩ラーメン

・・・何かが足りない。
あっ、付属の胡麻を入れ忘れた

本日の夜ごはん

酢の物にタコ入れたので豪勢になった

残り物のけんちん汁

MOURI のお土産 びんちょうまぐろ とろとろで美味
