青山美智子 著『リカバリーカバヒコ』を読了
新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。
近くの日の出公園にある古びたカバの遊具・カバヒコには、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで、”リカバリー・カバヒコ”。
アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。
光文社HPより
第一話 奏斗の頭……急な成績不振に悩む高校生
第二話 砂羽の口……ママ友たちに馴染めない元アパレル店員
第三話 ちはるの耳……ストレスからの不調で休職中の女性
第四話 勇哉の足……駅伝が嫌で怪我をしたと嘘をついた小学生
第五話 和彦の耳……母との関係がこじれたままの雑誌編集長
この作品は、青山さんの過去作品 ( 2018年『猫のお告げは樹の下で』、2019年『鎌倉うずまき案内所』、2020年『ただいま神様当番』 ) と同じ仕掛けで、それぞれの主人公が自分が直面している悩みを、ご利益に頼りながらも自らの力で解決していく話だ。
今回、主人公たちを助けてくれるのは、公園にあるアニマルライドのカバ「カバヒコ」。
オレンジの塗料が劣化してまだらに剝げ落ちている可哀そうなカバヒコは、こう言われている。
「カバヒコってね、すごいんだよ。怪我とか病気とか、自分の体の治したい部分と同じところを触ると回復するって言われてるの」
驚いた。このみすぼらしいカバに、そんなご利益があるなんて。
すっと人差し指を立て、雫田さんは言った。
「人呼んで、リカバリー・カバヒコ」
「リカバリー?」
「・・・カバだけに」
p.17
雫田さんというのは、第一話の主人公・奏斗の同級生で、
彼女曰く、この界隈では「カバヒコ」のことが都市伝説になっているらしい。
初めに言い始めたのは誰?
「リカバリーカバヒコ」の話を最初に言い始めたのは、
サンライズ・クリーニングの溝端ゆきえさんだった。
第五章の主人公・和彦は、実はゆきえさんの一人息子で、
ゆきえさんは、和彦は子供のころにいじめられているのを知り、
公園に新しく設置されたカバを指さし、こう言った。
「この子はね、和彦のためにやってきたカバヒコっていうんだ。お前の一番の味方だよ。すごい力を持ってるんだよ。自分が痛いのと同じところを触ると、治っちゃうんだから。人呼んで、リカバリー・カバヒコ!」
「・・・カバだけに」
カバヒコは、カズヒコからとった名前だったんですね。
ブラマンの話が出て来た!
青山さんの本は、よく登場人物がリンクする。
一冊の本の中でも、ある章の主人公が、違う章にチラッと出てきたりするし、
作品をまたいで、他の作品 ( 本 ) にもリンクする。
読者がそれに気づくのを、青山さんは「うしし」と喜んでいるんじゃないだろうか。
さて、今回の作品では《ブラマン》《砂川凌》がリンクしいてる。
第五話で、和彦の部下が「ブラマン」の特集をしたい、と言い出すシーンがあったが、
これまた青山さんの「うしし」である。
「ブラマン」は、栄星社で出している漫画『ブラック・マンホール』のことで、通称、ブラマン。出版界で注目を浴びているウルトラ・マンガ大賞を受賞し、アニメ化されたあとも売れ続けている。
作者は砂川凌といって、青山作品『赤と青とエスキース』の三章、トマトジュースとバタフライピーに登場する人物だ。
軽いタッチだが、よく読めば結構深い!
青山さんの本はさらりと読めて、人と人とのつながりが面白く、軽く読めるところが魅力だ。
だか読んでいくと、結構深いことを言っているところがあることに気づかさせる。
例えば、第四章で伊勢崎さんという整体師が出てくるのだが、彼が語る体の話は面白い。
勇哉は、学校行事の駅伝に出たくないことから「足が痛い」と仮病を使う。
親や先生を信用させようと二日間ほど、足を引きずって歩いていたら、本当に足が痛くなってしまう。
心配した母親と病院を回るも、二軒の病院で違う診断がくだる。
そんな折、同じマンションのちはるさんに整体医院を紹介されるのだが、その整体師が伊勢崎さんだった。
伊勢崎さんは、勇哉の体中を丁寧にさわって言う。
「勇哉くんの体は今、全体的にゆがみが出ちゃってるんだね」
「片足をかばって歩くことで、筋が張ったり、偏った方向に負担がかかってるんだ。
足だけの問題じゃないと思う」
「体と心はすぐそばにあるんだけど、頭だけ、ぽつんと遠くにあるんだよ。
勇哉くんの頭は、皮膚や筋肉が緊張しているのを、痛いって間違えちゃってるんじゃないかな」
鋭い見立てだ。
その後、伊勢崎さんから教わったリハビルを、勇哉くんは毎日こなす。
だんだん元の体になっていく勇哉に、伊勢崎さんが言った言葉が、胸にささった。
「人間の体はね、回復したあと、前とまったく同じ状態に戻るというわけじゃないんだ」
「病気や怪我をしたっていう、その経験と記憶がつく。体にも心にも頭にもね。
回復したあと、前とは違う自分になってるんだよ」
勇哉くんが「前とは違うって、良い自分なんですか、悪い自分なんですか」と聞くと、伊勢崎さんはこう言った。
「それは僕には決められない。ただ、その人が良い方向に行くようにと願いながら、僕はこの仕事をしてる。少なくとも勇哉くんは、足が痛くなる前にはわからなかったことが、わかってきたんじゃないかな。だから、それをこれから良いほうに活かしていってくれたらいいな」
伊勢崎さんが言っているのは、この本のテーマなのかも知れない。
《人は、傷ついて、リカバリーした経験が、それから先の自分に活かされていく》
青山さんは、五人の登場人物の痛みを通して、こういうことが言いたかったんじゃないかと思った。
不思議な登場人物
この本の中に、何気につながっている人物を見つけた。
「雫田」さんだ。
第一話で、奏斗が仲良くなる女の子・雫田さんは、成績が悪いわけではなく、優等生だった。実は雫田家は六人兄弟姉妹で、高校にかかるお金はできるだけ自分で稼ぐとアルバイトをしていた。そのせいで成績が悪いと言われたくないからと、勉強も必死て頑張っているという。
第二話で、紗羽が通うスーパーに接客の素晴らしい女性店員がいる。ネームバッジには「雫田」と書いてあるのを、紗羽はかなり早いうちからチェックしていた。しずくださんは、紗羽にとって販売員の鏡の存在だった。
本ではここまでしか語られていないが、たぶんこの第二話の雫田さんは、第一話の雫田さんのお母さんではないだろうか。
そしてこれは何の繋がりも書かれていないので、想像の域を超えないが、
第四話の勇哉の同級生・スグル君も「雫田家の男の子」ではないだろうか。
スグル君は滅法明るくて、自分が運動神経が悪くクラスメイトから困った顔をされても
「決まったことだから頑張る」とマラソンランナーを引き受ける。
走る格好もヘンテコで、決して速くないのにめげることがない。
スグル君がひとりで練習する姿に、勇哉は心を打たれ、スグル君の伴走をするようになる。
こんなキャラクターだから、
第二話の雫田さんが、スグル君のお母さんで、第一話の雫田さんがスグル君のお姉さんではないかなと、密かに想像し、ふふふとにやけている。
カバーをとった表紙にもカバヒコ
カバーをとった裏表紙には、カバヒコのお尻
表紙を広げると、5話の主人公たちが描かれていた。
本日の昼ごはん
サンドイッチ、かなり乱れているが味は抜群!
ホワイトシップ印のツナ缶とリアルマヨネーズが
我が家のサンドイッチをバージョンアップしてくれた。
本日の夜ごはん
残り物のゴーヤチャンプルーがみえます 💦
ひとりデザート
私の大好物の梨、MORI は苦手なので独り占めします