Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

安田夏菜箸もとい 著『むこう岸』

 

『蕁麻の家』三部作の、第一部「蕁麻の家」まで読んだところで、この本 降りることにしました。

救いがなさすぎて、辛くなったからです。

f:id:garadanikki:20200926101212j:plain

この三部作は、

第一部で主人公 ( 著者自身 ) が、代田の家で祖母や親せきから虐待され育つ思春期の話で、

第二部は、主人公が結婚して夫との隔たりや忍耐に苦しめられる日々の話だそうで、

第三部は、離婚してから母親を引取り過ごした日々がつづられているそうです。

 

第一部が発表された時、その内容を信じない、被害妄想と評する者もいたという位、壮絶な内容です。

真相はともあれ、あまりに救いようのないのは確かで、

「これは、今、私が読みたい文学作品ではないな」と判断して降りました。

 

後味の良い、感動的で希望に満ちた話を読みたい!

そんな理由から再読したのが安田夏菜 著『むこう岸』でした。

f:id:garadanikki:20200928130559j:plain

 

三か月前に書いた記事に、マミーさんがくださったコメントに書かれていた本でした。

「大丈夫です」の続きのお話 - garadanikki

 マミー (id:mamichansan)

おはようございまーす。
「ある意味尊敬しています」には思わず吹き出してしまいました。
それを言ってしまう人は「ある意味」という言葉が口癖になっちゃってるんでしょうねえ。

SNSは便利でとても使い勝手のいいツールですが、たくさんのマナーがあるようです。
ラインでの長文はダメ、とか。
既読スルーしていいのはこの場合、とか。

基本的にテキストチャットなので、長文を打ち込むのは面倒なのでしょう、了解は「りょ」で通じるみたいですよ。もしくはスタンプのみとか。

そういえば、最近「むこう岸」という本を読んだのですが、その中で「腹痛」という言葉が通じなくてクラスの中で浮いてしまう男の子が出てきました。

SNS、同調圧力、ネットでの炎上、過剰なサービス・・・
今の「おかしな」日本語に触れるたび、若い人たちはあまりにも強く頭を抑えつけられていると感じます。
だってそのおかしさのほとんどは婉曲表現に関するものばかりですもの。

日本語がおかしな方向に突っ走っている、その要因の多くは、もしかしたら粗暴なお客やキレる中高年のせいかもしれないと、たまーに思います。

将来、私も短気で怒りっぽいお年寄りになったらどうしましょう…(>_<)

「むこう岸」というタイトルと、腹痛という言葉ひとつで浮いてしまった少年というが気になって、

図書館に予約待ちでやっと借り出せたのは10日前のことでした。

 

良書でした。感動しました。

小学上級以上が対象の児童書なのでサクサク読めました。

有名進学校で落ちこぼれ、中三で公立中学に転校してきた医者の家の男の子と、

転校先で出会った貧困家庭の女の子との話なんですが、これがいいのです 。

 

裕福な家に育つ山之内和真と、生活保護受給家庭で育つ佐野樹希は住む世界が違いすぎて、

お互い理解し合うことが出来ずにいました。

川のこっち側とむこう岸にいるような両者が、ひょんな事件で知り合い、嫌悪感や摩擦を乗り越えて、

お互いの立場や気持ちを理解していくようになるという、希望に満ち溢れた内容です。

 

生活保護を通して、色々な気持ちになる子どもたちがいました。

裕福な家の、親の、偏見に満ちた考え方をそのまま鵜呑みにしてしまう子どもの気持ちも、

貧困ゆえ、自暴自棄になってしまう子どもの気持ちも、

親の苦労を見て、「生活保護なんてズルい」となじってしまう子どもの気持ちも、

ひとりひとのの子どもたちが丁寧に描写されていました。

 

 

中学生という多感な時期には、親の影響が絶大であることや、

それでもニュートラルな考え方が出来る子もいたりすることや、

「この年頃の子は、思考も柔軟であるんだなぁ」と気づき感動しました。

本の中の子どもたちが、大切な思春期に、良い出会いがあったことに嬉しくなりました。

 

 

生活保護や貧困問題への偏見もキチンと書かれていました。

綺麗ごとではすまない事情や、立場が違えばここまで見方も変わるものかということも

この本を通してつきつけられました。

本の中には、極悪人は出てきませんでした。

置かれた状況につまづいたり、自暴自棄になったり、病んだりする大人はいても、

そうなってしまった事情がそれぞれにある。

 

そんな大人の姿を見て、反感を覚えたり、社会に疑問を呈したり、それでもまだ大人に頼らなければ生きていけない身であることに悶々となりながらも、育っていく子どもたちの過程が魅力的でした。

 

作品は、山之内和真と佐野樹希の交互の一人称で進むので、テンポがありました。

むこう岸とは、最初《立場の違う和真と樹希が対岸にいる》というイメージでとらえていましたが、

読み進む内に《子どもの未来はむこう岸にある》という意味でもあるのかと気づきました。

 

とにかく最後までスラスラと読めてしまう、勿体ないほどに。

主人公のふたりだけでなく、周りの人たちも魅力的。

是非、手にとってみて欲しい一冊です。

 

冒頭の部分が試し読みできます⤵

bookwalker.jp

 

 

本日の朝ごはん

f:id:garadanikki:20200925101815j:plain

パンが二枚だけだったので、塩ラーメンを半分こ

f:id:garadanikki:20200925101840j:plain

 

本日の夜ごはん

f:id:garadanikki:20200925195320j:plain

塩糀漬け鶏肉焼き、ポテトサラダ、すじばっかりのまぐろ、厚揚げ、

出汁巻き卵、サツマイモのレモン煮、枝豆

 

「人が作った出汁巻きはどんな味なんだろう」と気になって買ったスーパーの総菜

f:id:garadanikki:20200925195336j:plain

いいお味でした❤

 

塩糀漬けの鶏肉

f:id:garadanikki:20200925195343j:plain

3時間、塩糀に漬けておいたら、柔らかく仕上がりました。

しょっぱそうな色だけど、意外にそうでない。

 

 

 

 

 

とじこみは、本の中で感心した部分をつらつらと備忘録です。

読み飛ばしてください。

 

初めてのケースワーカー

「あせらずにね。今は自分の体と、子どもさんたちのことでけ考えてたらいいんですよ。そのためにこういう制度があるんですからね。困ったことは、なんでも相談してくださいね」

ふくふくした体のそのおばさんは、ほんとうにこいろいろ相談にのってくれていて、ハハはそのおばさんが来ると子どものように目を輝かしたものだ。

 

担当替えのケースワーカー

「保育園に空きがありますよー。奈津希ちゃんも一歳になったし、入園しましょうよ。近ごろ保育園はなかなか入れないのに、奥さん、ホントにラッキーですよね!」

やたら親切そうにそう言ったけど、それは「いつまでも生活保護もらってんじゃねーぞ。早く働きに出て自分で稼げ」ということだった。

「パニック障害? ああ、けど近ごろは、発作も出なくなってるそうじゃないっすかー。そろそろお仕事とか、探してみたらどうですかね」

「あのう ⵈⵈ 。もうちょっと先じゃ、ダメですか? 奈津希もあんまり体丈夫じゃなくて ⵈⵈ 、それに私もまだ、社会に出て働く自信が ⵈⵈ 」

「奥さん、そりゃ、甘えじゃないですかね」

ケースワーカーは、急に声を大きくした。

「奥さんがもらってる生活保護ね。これは空から降ってきたお金じゃないですから。国民のみなさんが、一生懸命働いて納めた税金からお支払いしてるんですー。だから奥さんも、ご病気抱えて、子どもさんたち抱えてたいへんだと思うけど、できる範囲で働いて欲しいんすよ。」

ハハは泣きそうになりながらそれを聞いてたけど、その夜久しぶりにパニック障害の発作を起こして、救急車で運ばれた。そして日に日に具合が悪くなった。

ケースワーカーも気に入らないけど、ハハもハハだとあたしは思った。

 

生活保護体操服事件 

「うらやましいよなー」

母が財布を落とした翌々日、学校に行くと齋藤にからまれた。

「生活保護のうちってさー、病院代がタダなんだって?」

齋藤は「生活保護」のところを、よく聞こえるように強めに発音しながら、嫌な目つきであたしを見た。

「いいよなあ。働かずに金もらえるんだ。そのうえ病院もタダかよ。うちなんてさ、父ちゃんが朝から晩までトラック運転して、母ちゃんも毎日スーパーで品物出したりひっこめたりして、ふたりとも腰が痛くて病院行ってもタダじゃないぜ。がっつり治療費、とられるぜ」

言い返そうとしたけど、なんて言っていいやらわからなかった。

齋藤の言うことは、ほんとうだ。

「ちょっと、ずるくね?」

「生活保護の家って、ぜったい得だよな。得してるくせに、それを隠してるんだからずるいって、うちの母ちゃんも怒ってたぜ。オレ、思ったんだけどさー。生活保護受けてるやつは、全員生活保護って書いたTシャツ着ればいいんじゃね? それくらいしないと不公平じゃん」

「そうだね」と、あたしは真正面から齋藤を見かえした。

「うちらは、みなさんに養ってもらってるんですよね。どうも、ありがとうございます」

廊下のロッカーに走っていって、体操服を取りだした。模造紙に掃除当番表を書こうとしている掲示係の手から、油性ペンをひったくる。

体操服の前面いっぱいに「生活保護」と大きく書いた。

ひっくり返して背中に、「ありがとう」と書きなぐった。

 

 

おばあちゃん

おばあちゃんと母さんは、一見仲良くしているように見える。

しかしおばあちゃんが、決して母さんを好きでないらしいことを、ぼくは小さい時から知っている。

 

「犬の散髪屋さんをしてたっていうのに、どうして不器用なのかしら、ねえ」

その「犬の散髪屋さん」という言い方には、どこか見下すように匂いがこもっていて、ぼくは幼いながらにドキっとしたものだ。

おばあちゃんは、東京の裕福な家に生まれ育った。女子大を出て、結婚前は放送局で秘書をしていたという。

対して母さんは、田舎の農家の出で、ペットショップでトリマーをしていた。風邪をこじらせて病院にかかったとき、父さんと知り合ったのだ。

 

おばあちゃんと父さんには、共通の愛読書がある。「全国高校難関大学合格者数ランキング」という、長々とした名前の特集記事が載っている。

父さんの母校である、有名進学高校の成績を確認するのが、春の恒例行事だ。

 

 

「恵まれない、ビンボーな家の子ども」とマスターは言った。

やはり ⵈⵈ と思った。佐野さんの、あのどことなくすさんだような目。

ぼくに対する攻撃的な態度。

はっきり言おう。

ぼくは、生活レベルが低い人たちが苦手だ。怖いし、嫌悪感がある。

 

 

アベルくんに勉強を教える

自分のことを、バカだと思わねばならぬのは、辛い。ほんとうに、辛い。

この一瞬、ぼくはアベルくんに怖れではなく、親近感に似た気持ちを抱いた。

「きみは、バカではありません」

思わず、心をこめてそう言った。ポカンとしているので説明を加えた。

「なぜならアベルくんは、自分のことを客観的に ⵈⵈ 」

もっと、伝わりやすい表現はないかと言葉を探す。

「つまり ⵈⵈ 、自分のことを離れたところから見て、きちんとわかろうとしています。そういう人は、バカじゃないと考えます」

 

アベルくんに勉強を教えるようになった和真は、、、、

アベルくんの学力があまりにも低いことに呆然としていた。

 

アベルくんの集中力はたやすく途切れ、「疲れたの?」と聞くと、うんといなずく。

休憩をしてストレッチをして

「だいじょうぶ?勉強出来る?」と聞くと

⸺もういっかい、がんばる⸺

そうやって疲れるたびに励まして、分数の勉強を続行する。

六時を過ぎるとアベルくんは、魂が抜け果てたごとく疲れ切り、眠ってしまった。

グウグウ眠っているアベルくんを見ていると、また、ほのぼのとした思いがこみあげる。

この場所に、アベルくんに、癒されていると、ぼくは思う。

 

居場所ができた

この前佐野さんに怒られた、自分でも気がついていない「上から目線」な哀れみでアベルくんを見て、自分を慰めているのだろうか?

僕は、注意深く自分の心の中をのぞいてみる。

いや ⵈⵈ それとは違うものがある。たしかにある。

ぼくは純粋にうれしいのだ。

自分を待ってくれている場所がある。そこで、やるべき仕事がある。

そのことがしみじみと嬉しいのだ。

 

ニュートラルな女の子 

「中学生にもなって自分のことをエマだなんて」と、樹希はなじった。

和真は、エマと樹希は仲が悪いのだと思っていた。

しかし、エマを一方的に遠ざけていたのは樹希の方で、エマは樹希の家のことなどまるで気にしていなかったのだ。

小さい時のように仲良くしたい、と思いながら、エマは自分を遠ざけようとする樹希を遠くで応援していたのだった。

 

 

生活レベルの違う二人のいさかい

「アベルくんに、割り算を教えました」

山ノ内がボソボソと説明した。

「苦労しましたが、三桁の割り算までいきました」

「あっそ」

「アベルくんは、いい子ですね」

アベルの寝顔を見ながら、しみじみと言う。

「そうだよ。ちょっとおバカだけどね」

「バカと言わないであげてください。その言葉は人を傷つけます」

「ふうん ⵈⵈ 。あんた、わかってんじゃん」

「 ⵈⵈ ぼくもいろいろ苦労したもので」

「はーん」

あたしは、ちょっと白けた思いで山之内を見た。

「エリート中学クビになって、公立中に来たことを言ってるわけ?

 そんなこと、苦労でもなんでもない。いいとこのおぼっちゃんが、苦労とか言ってんじゃねえよ!」

 

 

樹希のために、生活保護のことを調べ始めた和真。

樹希が以前

「生活保護家庭の子どもは、高校を出たら働かなければいけない。

 バイトをして、貯金する自由もない」と言っていたことに対して、

「そんなにおかしい」と思った和真は、

生活保護についての本を読んだり、偶然知り合ったエマの叔父さんが生活保護に詳しいことを知り、色々と相談していたのだった。

 

そして和真は樹希に言った。

「佐野さん、きみは勘違いをしているよ。きみは進学できる。

 高校生になったらバイトをして、それを貯金することもできる」

進学のこともバイトのことも基本的にはダメなのだが、いくつか例外と認められるケースがあるらしいのだ。

高校生が、自分の将来のためにアルバイトをしてお金を貯める。それは数年前から、例外として認められることになったそうだ。

遊びや、贅沢品を買うための貯金はダメだけど、進学や就職の準備のためなら貯金ができる。家に支給されるお金も減らされたりしないのだそうだ。

 

裏技

生活保護家庭の子どもは、進学せずに働かねばならないのは基本だが、これにも裏技がある。

生活保護家庭の一員でいる限り進学は無理なのだが、今の家庭から抜ける=これは書類上のことで、一緒に住んでいても『進学時の世帯分離』という手続きをすれば、出来るということだった。

 

ケースワーカーはどうしてそれを教えてくれなかったの?

こういう例外や裏技などの踏み込んだ説明をしてくれなかったのは、ある意味では職務怠慢ともいえることだ。

しかし、ものすごい量の規則が、全部頭に入っていないことも考えられる。量が多いうえに、年々変化しているから、ケースワーカーも全員完璧ということではない、知識不足のまま大量の仕事を抱えて、アップアップしている人がいるのも現状。

 

知らなければ損をする制度

「結局、制度というものは、知らなければ確実に損をするということだね」

和真は悲しげな、ちょっと腹立たしげな声でつぶやいた。

 

 

ずるくない、それは権利だ 

樹希は「生活保護体操服事件」を思い出して、また心に灰色のもやが立ち込めた。

⸺いいよな、おまえら。得しやがって⸺

斎藤君がそう言った時、確かにそうだと思った。

生きてるだけで感謝しなくては、お金をもらってるんだからと、遠慮をしながら、目立たず控えめに生きていくのが、あたしら貧乏人の運命なんだと自分に言い聞かせてきた。

そう思ってずっと耐えて、なにもかも、どうでもいいような気になって。じゃあ未来をあきらめるのかと思うと、心がひねくれそうになって ⵈⵈ 。

 

「ずるくはない。それは権利だ」

和真はきっばり言うと、本の中から「生活保護手帳」を指さした。

 『生活保護法 第一章 第二条

 すべての国民は、この法律の定める要件を満たす限り、

 この法律による保護を、無差別平等に受けることができる』

 

 

貧乏は自己責任か

和真が生活保護の本を読んでいることに、お父さんは不機嫌になって言った。

「貧乏は自己責任だ。今までの努力が足りないから、そんなところまで転落してしまったんだ。

 そういうやつらを、まっとうに働いているものが納めている税金で、養っている。

 そちらの方が理不尽だ」

 こんな、受験と関係のないことを調べるなんて、時間に無駄だ!」

 

仲裁に入った母親は、生活保護が中学の友だちの為だと知ると、母親の態度も変わった。

「和真はその子と ⵈⵈ おつきあいしてるの?」

「まさか、そんなんじゃないよ!」

「そ、、そうよね。あー、びっくりした。生活保護んちに女の子と、おつきあいしているのかと思ったわ。

 生活保護家庭の人って、あまりいいイメージないもの。

 そりゃあいろんな人がいるから、ひとくくりにはできないけどね。

 やっぱりうちとは、ちょっと違う世界の人だと思うじゃない」

 

そうだ。少し前までのぼくも、母さんと同じだったじゃないか。

「生活レベルが低い人」の世界に、嫌悪や恐怖すら抱いていた。

そういう世界とは、一生関わりを持たずに生きていくものだと思っていた。

今の生活が、決して楽しくもうれしくもなく、居場所するなくしていたくせに。

なんだかんだ言っても、ここが一番よいはずだ、そのはずなんだと自分に言いきかせ、わずかながらの優越感をかき集めるようにして。

そう、優越感⸺。プライドというより優越感だ。