荻原浩 著『海の見える理髪店』を読了。
今でも予約待ちが続く人気本で、図書館ではいつになるかわからないので、
古本を買ってしまった。
カバーと帯を取ると、表紙は薄い水色。
カバーのイラストの空と同色で表に一羽、裏に一羽、カモメが飛んでいる。
なんだか嬉しい
図書館で借りた本だったらコーティングされているから絶対に見られないカモメさん。
購入したからこそ出会えたカモメさん。
「海の見える理髪店」は、先日NHKスペシャルドラマが面白かったので原作を読みたくなったもので、
ドラマ・原作とも甲乙つけがたい秀作だった。その他 5つの短編が収録されている。
それぞれ家族をテーマにしたもので、どれも心に染みる作品だ。
特に感動したのは「いつか来た道」と「成人式」で、眼がしらが熱くなり久しぶりにおいおい泣いてしまった。
荻原さんは、以前『愛しの座敷わらし』を読んだことがあるが、今回の作品集も健気な子供の姿が描かれている。
「空は今日もスカイ」
父親を亡くした少女が、母親に連れられて親戚の家に身を寄せるが邪魔者扱いをされ、プチ家出をする話。
最初は親切に接して英語を教えてくれた従姉だったが、最後に教えてくれた単語が「パラサイト」だったというのが衝撃的。
海に向けてプチ家出の途上に知り合い同行することになった男の子が「透明人間になりたい」とゴミ袋をかぶっていたのも哀しい。
年下だと思っていた背の低い男の子が実は年上だったということ、親切にしてくれたビッグマンも実はそんなに大男ではなかったという、少女が見た人の印象が面白かった。
「いつか来た道」
芸術家の母と娘の葛藤を描いた話。
絵描きの母は、夫と3人の子供よりも芸術に邁進する人だった。
主人公の次女は、自分と芸術しか頭にない母からけなされて育つ。
何をやっても認めて貰えない母から独立を果たし、家に寄りつかずに生きてきた次女が、弟の持ちかけにより、何十年ぶりで実家に戻る。
そこにいた母親の姿を見て、次女の心は激しく揺さぶられる。
母と娘の微妙な関係性を、男性の荻原さんはよくわかるものだなと感心してしまった。
「成人式」
中学の娘を事故で失った夫婦の話。
娘が死んでしまってから抜け殻のようになってしまった夫婦の元に、成人式の晴れ着のパンフレットが届く。
烈しく動揺する夫婦だったが、夫の奇妙な提案に妻が乗り、二人は地元の成人式会場に向かう。
成人式の会場で出会う人々との場面に、涙をこらえることが出来ずおいおい泣いてしまった。
他にも、
夫と喧嘩をして実家に戻った妻が受け取った奇妙な手紙について書かれた「遠くから来た手紙」
母から、父の形見分けとして時計を貰った60代の男が、時計屋に修理に持ち込む「時のない時計」
収録された短篇はどれも《家族の死》にまつわる内容だったが、
中でも3本が、親が子供を失くす「逆縁」が扱われていた。
ひとつひとつが淡々と語られているから余計、読んでいるこちらの胸にどんと突き刺さってしまった話であった。
本日の昼ごはん
明太子パスタ
明太子パスタは、失敗しないコツをつかんだメニュー。
いつも美味しくできるのって、そりゃ、とても嬉しいものだ。