『メアリ・ジキルとマッドサイエンティストの娘たち』読了後、原典の作品を読んでいる。
ひとつめは『ジキル博士とハイド氏』。
そして今日、ふたつめの『フランケンシュタイン』を読み終えた。
面白い!
フランケンシュタインとは、こういう話だったのかと驚き感動するとともに、
それを書いたのが24歳の女性だということにも驚嘆した。
この本は、恐ろしい怪物が闊歩するというホラー小説ではない。
科学や精神世界の観点からも綿密に構築されているので、
研究者の欲望とか、人と人の絆とかも伝わってきて、深く考えさせられる話だった。
私は《フランケンシュタインが怪物の名前》だと勘違いしている多くの人の中のひとりで、
アニメ『怪物くん』のフランンのイメージぐらいの認識しか、恥ずかしながら持っていなかった。
ところが本作の怪物は、フランケンシュタインという名の科学者が作った《被造物》のことだった。
科学者は、自分の作った《被造物》のあまりの醜さに絶望し、恐れをなして打ち捨てる。
《被造物》は、人間に迫害を受けながらも、言語や愛情を習得し苦難の旅を続ける。
これが怪物の正体だ。
『フランケンシュタイン』の登場人物を整理する
ロバート・ウォルトン:
北極探検隊の隊長。北極海で怪物を追い、衰弱していたフランケンシュタインを救出する。
ヴィクター・フランケンシュタイン:
科学者を目指す青年。『怪物』を作り出してしまう。
怪物《被造物》:
フランケンシュタインによって作り出された人造人間。
高い知性と体力を持ち、感受性をも身に着けるが、容姿は醜くおぞましい。
エリザベス:
フランケンシュタイン家の養女となり、ヴィクターを
ヴィクターの父の勧めで、ヴィクターと結婚するのだが。。。
クラーヴァル:
ヴィクターの親友だが、ヴィクターは彼に怪物のことは打ち明けられないでいる。
【あらすじと構造について】
本作の構造
本作の三重構造になっている。
イギリス人の北極探検家ウォルトンが姉に向けて書いた手紙が外枠になっている。
フランケンシュタインの物語は、ウォルトンがフランケンシュタインから聞いた話を書き留めたものとして記述されている内枠の話。
怪物の物語は、フランケンシュタインが怪物から告白された話を、ウォルトンに語ったものとして、内枠の更に内枠の話となる。
あらすじ
ウォルトンは北極点に向かう途中、北極海で衰弱した男性を救出する。
男性の名はヴィクター・フランケンシュタインといい、ウォルトンに自らの体験を語り始める。
スイスの名家出身の青年フランケンシュタインは、両親と弟ウィリアムとジュネーヴに住んでいた。
両親はイタリア旅行中に貧しい家でエリザベスという少女を見初め養女にする。
フランケンシュタインは科学者を志し、故郷を離れインゴルシュタット大学で自然科学を学んでいた。
ある時フランケンシュタインは、生命の謎を解き明かし自在に操ろうという野心にとりつかれる。そして研究の末、「理想の人間」の設計図を完成させ、それが神に背く行為であると自覚しながらも計画を実行に移す。
墓を暴き人間の死体を手に入れたフランケンシュタインは、それをつなぎ合わせた人工の肉体に、命を吹き込むことに成功する。しかし完成したのは醜い『怪物』だった。あまりのおぞましさにフランケンシュタインは絶望し、怪物を残したまま故郷ジュネーヴへと逃亡する。
一方、見捨てられた怪物は、苦難の旅を続けながら言語も習得、愛情も芽生えるのだが、その容姿ゆえに人間からは忌み嫌われている。フランケンシュタインの故郷にたどり着いた怪物は、そこでもフランケンシュタインの弟ウィリアムから罵りを受け、弟を絞め殺してしまう。
殺人犯の汚名を着せられたのは、家政婦のジュスティーヌだった。
ジュスティーヌは容疑が晴れぬまま絞首刑になってしまう。
孤独のなか自己の存在に悩む怪物は、フランケンシュタインに対して「自分の伴侶となり得る異性の怪物をもうひとり作って欲しい」と要求。「願いを叶えてくれれば二度と人前に現れない」と約束する。
フランケンシュタインは、友人クラーヴァルの付き添いの元イギリスを旅行し、オークニー諸島の人里離れた小屋で、もうひとりの人造人間を作る作業に取りかかる。 しかし、さらなる怪物の増加を恐れた彼は土壇場で要求を取りやめ、機器を海へ投げ捨てる。
裏切られた怪物は怒り狂いクラーヴァルを殺害。フランケンシュタインは漂着した村でクラーヴァルを殺した犯人と間違えられ、牢獄に入れられる。
疑いが晴れた彼は故郷に戻り、父の配慮で、養女として一緒に育てられたエリザベスと結婚するが、その夜、怪物が現れて彼女は殺されてしまう。
憎悪に駆られたフランケンシュタインは怪物を追跡し、北極海までたどり着くが途中で倒れ、ウォルトンの船に拾われたのだった。
全てを語り終え、怪物殺しをウォルトンに託し、フランケンシュタインは船上で息を引き取る。
しかしウォルトンは船員たちの安全を考慮し、北極点到達を諦め、帰路につく。
そして、創造主から名も与えられなかった怪物は、創造主の遺体の前に現れ、その死を嘆き、その場に現れたウォルトンに自分の心情を語った後、北極点で自ら焼け死ぬために北極海へと消える。
怪物のその後は誰も知らない。
怪物に芽生えた最初の感情は《愛》だった
一番に心を奪わたのは、怪物の悲しみの深さが記される告白の場面だった。
怪物は、フランケンシュタインを追って彼の故郷にやって来て「自分の伴侶を作って欲しい」と要求。
そして、ここまでやってきた間に起きた出来事と、自分の心の変化を告白する。
怪物は、創造主であるフランケンシュタインから、失敗作と打ち捨てられた。
そんな彼は元々善良な存在だった。
ある小屋に住み着いた怪物は、壁一枚隔てた隣家の家族に興味を抱き、盗み見る生活が始まる。
盲目の父と息子と娘は、貧乏ではあるがお互いを愛し助け合って生きていた。
怪物は、家族を通して、自分の心の奥底にも愛があることに気づく。
怪物は、家族のやりとりから言語を学び、やがて本も読めるようになる。
怪物は、家族の役に立ちたいと、家の前に薪を置いたりする。
怪物は、家族と親しくなりたいと願い、どのように近づけば嫌われないかを考え始める。
満を持して訪問するが、盲目の父と話をしている所に帰ってきた息子は、怪物を見て撃退する。
そして家族は小屋を捨て逃げ出していく。
今までも人間から石を投げられたことはあった。
しかし最初のうち、彼はまだ善良だった。
家族との出会いや読書体験を通して、怪物は「人間」として目覚めはじめる。
しかし「この家族なら」と近づいた彼らからも疎外されたことから、彼の心は歪み、
人間に対しての憎悪が生まれ始める。
物語の中盤に書かれたこの告白を読んで、罪の根源は怪物にないことがわかってくる。
また、怪物は最後までフランケンシュタインを慕っていたのがわかる。
「慕う」というのもちょっと違うようだが、それでも怪物は誰かに自分というものをわかって欲しかった。
彼が自分の心情を吐露できるのは、自分の創造主-フランケンシュタインだけだったから。
北極点に向かう船室で死んだフランケンシュタインの枕元に出没したのは怪物だった。
その記述がこちら
船室の入ると、悲しい運命に襲われたあのすばらしい人の遺骸がありました。そしてそれを覗き込むようにしているもう一つの姿。とても言葉にすることができません。巨大な体躯ですが、均整のとれない異様に歪んだ姿でした。棺の上に被さるようにした顔は長い髪におおわれて見えませんが、伸ばした大きな手は、色といい肌合いといい、まるでミイラのようです。ぼくがやって来た音を聞きつけると、それまで発していた悲嘆と恐怖の叫びを止め、飛ぶようにして窓辺に移動しました。
悲嘆と恐怖の叫び?
彼はどうしてフランケンシュタインの元にやってきたのだろう。
筆者は、ウェルトンを通して、怪物がフランケンシュタインの死を嘆いているように書いている。
怪物は、ウォルトンに問われるままに、自分の思いを滔々と語る。
自分とフランケンシュタインの絆について、自分が犯した殺人に対して悔恨で狂いそうになっていること、フランケンシュタインが死んで自分の存在にも終止符が打てる時が来たこと、ひういったこと全てを鑑みても、怪物は自分の存在を受け止めてくれる相手が欲しかったのだと感じるエンディングだった。
人と人の絆について感じること
フランケンシュタインと怪物とのつながりだけでなく、人と人の絆を感じさせることがいくつもあった。
この作品を三重構造になっている点にも、その狙いがあったように思う。
ウォルトンの存在は重要である。
彼は唯一、フランケンシュタインからも、怪物からも、真実を打ち明けられている相手だ。
またウォルトンは研究者としてフランケンシュタインと対照的になっている所も興味深い。
フランケンシュタインが自分の欲望を抑えきれずに、神をも冒涜するような行為 (人造物を作る ) に走る。
だかウォルトンは反対に、探検調査がもたらす科学的業績と栄光を断念して乗組員の人命を優先し、「現代のプロメテウス」にならない決断をする。
この対比も、当時の研究者たちに対する筆者のメッセージが潜んでいるように思えてならなかった。
本日の昼ごはん
暑いしこういうのが嬉しい
本日の夜ごはん
ホワイトセロリを買ってきてくれたので、ハムと一緒にサラダにした。
ドレッシングにはレモンを効かせ、黒胡椒をアクセントにした。
右下の茶色いものは、手作りのちくわの磯部揚げ。
スーパーに売っているのはよく食べていたが、自分の家で青海苔をまとわせて揚げたものは別物の美味しさだった。
デザートは、カスピ海ヨーグルト、紫に見えるのはブルーベリー