ハリー・ルーベンホールド著『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』を読了。
この本を読むキッカケは、
『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』に類似する事件があったから。
『メアリ・ジキル~』では、冒頭に連続娼婦殺人事件が起こる。
ホワイトチャペルで起こったその事件は、《切り裂きジャック》 を連想させるもので、
娘たちがシャーロック・ホームズと協力して真相を解明していく。
犯人はフランケンシュタインの怪物で、怪物はハイドと組んで娼婦の肉体を盗み、
花嫁の復活をもくろんだという筋書きになっていた。
しかし、現実の《切り裂きジャック》は犯人が捕まらないまま未解決で終っている。
切り裂きジャックとは
「100年以上前のロンドンで発生した連続猟奇殺人事件で、被害者は娼婦、犯人は捕まらず未解決のまま終わった」ということしか知らなかったので、もう少し調べてみたくなった。
Wikipedia には、被害者は《娼婦》と書かれているけれど、
『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』によると、全員娼婦ではなかったらしい。
当時のマスコミも世間も、殺人が起こったホワイトチャペル及びその周辺は、強盗、暴力、アルコール依存症は日常茶飯事の貧民街で、そこに住む多くの女性たちが日々の生計を立てるために売春をしていたことから、被害者も《娼婦》であると片づけていた。
ところが著者の念入りな調査により被害者の中の3人は売春をしていたという事実が全くなかった。
彼女たちがどうしてこの貧民街にいきついたのかというと貧困やアルコール依存が主な理由で、家族から打ち捨てられた女たちは救済施設や安宿を転々とする暮しをしていた。
元々は裕福とはいえないまでも、そこそこの家庭に育っていた彼女たちは、結婚して子供を沢山かかえてしまったり、夫との関係がぎくしゃくしたりして、アルコール依存症になっていった。
夫や親兄弟に見放され、行くあてもなく流れ着いた先がホワイトチャペルだったらしいが、全員が体を売っていたかというとそうではなかった。
本書はその劣悪な環境から、被害者のひとりひとりの生い立ちまで丁寧に調べ上げられている。
従来の関連本は、事件の凄惨さを書いたもので、被害者に焦点はあたっていない。
本書は、被害にあった女性の凄惨な殺され方には触れずに、そこにいきつくまでの彼女たちの生い立ちや、成長過程、家庭生活、どうして堕ちていったかがわかる資料になっている。
それを見ると、当時のイギリスがいかに女性が生きにくい世の中だったかがわかる。
女性に限ったことではないが、ひとにぎりの階級以外の、庶民の生活がいかに貧しく、虐げられ、劣悪な環境から抜け出せなかったかが理解できる。
労働者階級は子沢山だが、死亡率も高い。
人口過密のロンドンの労働者階級が住む ( 詰め込まれている ) ホワイトチャペルという地区が いかに酷いかが、下の文章にも書かれている。
一家族にベッドはひとつで充分だったろう。テーブルひとつと椅子数脚で、居間にも食堂にもクローゼットにもなる。親も子もきょうだいも、互いの面前で着替え、からだを洗い、性交し、「手洗いが隣接」していない場合は排便さえしていた。家族のひとりが食事の準備をしていると、病気で高熱の子どもが室内用便器に嘔吐し、その横では親やきょうだいが半裸になって着換えている。夫と妻が未来の子どもを作っている脇で、現在の子どもが寝ている。人間の最も基本的に状況さえ隠すことができない。
建物は湿って崩れかけた壁、漆喰が煤で黒くなった天井、腐った床板、割れているかきちんとはまっていないかで風雨が隙間から入ってくる窓を、入居者は覚悟の上だった。
煙突のつまりで煙が室内へ逆流し、呼吸器疾患を患う子も大量に出た。共有の廊下や吹き抜けもたいしてよくない。
けれども、いまにも崩れそうな建物にひしめきあって暮らすこと以上に住民を悩ませてたのは、清潔な水と充分な排水、新鮮な空気の不足だった。それらの点でロンドンの路地は最悪であり、調査によると、複数の世帯がたったひとつの水源を使っていることが常だった。水が蓄えられている樽は、ほぼ間違いなく「水面の不潔な堆積物」に汚染されていた。水溜めから汲んだ、夏場には臭うような「くず水」で、炊事や洗濯をせざるを得ない住民もいた。こうした建物の多くは汚水槽がなかったため、室内便器の中身は「路地や通りへ放出され、雨が側溝へと押し流してしまうまでそこにとどまっていた」コレラやチフスの流行による多くの死者や、医療監督官がおおまかに「発熱」と記述するものの発生は、当然ながら頻繁に起きた。
p.34
1888年といえば日本は明治21年。
人口密集地だった東京でさえ、これほど劣悪な環境ではなかった。
江戸は既にインフラが整備され、上下水道が完成していた。
なにより凄いのが、屎尿を汲み取り式にして下水には流さなかったことだ。
幕末に日本を訪れたイギリス人外交官・オールコックは「よく手入れされた街路は、あちこちに乞食がいることをのぞけば、きわめて清潔であって、汚物が積み重ねられて通行をさまたげるようなことはない」「これはわたしがかつて訪れたアジア各地やヨーロッパの多くの年と、不思議ではあるが気持ちのよい対象をなしている」 ( 『大君の都 幕末日本滞在記』 ) と述べており、
日本を訪れた他の外国人もおおむね「日本は美しく清潔な国」という印象を抱いている。
家族から捨てられた女
100年以上前の女性の地位は ( 日本でもヨーロッパでも等しく ) 大変低かった。
イギリスでは、夫の暴力や不倫から逃げた女性はその日の内に露頭に迷った。
夫の不倫や飲酒は認められても、その逆に妻の不倫や飲酒は許されない。
離婚したくても、夫に籍を抜いてもらえなければ出来ない。( 宗教の問題もある )
コレラや結核が蔓延し、夫や長男といった稼ぎ頭が死亡した途端、家庭は破綻する。
女性には財産の相続権もないし、再婚できないし、働き口も限られている。
そうなれば、女性がふしだらであろうがあるまいが、一様に堕ちていくしかない。
本書は、《切り裂きジャック》の背景にある社会情勢や当時の女性がどう生きたかを記録した貴重な資料として、私の心に強く刻まれる一冊になった。
本日の昼ごはん
冷や汁そうめん
そうめんを茹でる時 梅干しを一個いれると、そうめんのでんぷん質が溶け出さずプリプリ食感になるらしい。
やってみたら、本当に美味しくなった。
梅干しもこうしてトッピングすれば、味の上でも良いアクセントになっている。
本日の夜ごはん
メインはカレー。
なので、つまみは簡単に。
里芋は、出汁でつかったどんこと一緒に煮て、白だし醤油と昆布茶で味付け。
シーフードカレー
玉ねぎをいつもの倍、丁寧に炒めたことと、えのきを一袋入れたことで、
今までで一番美味しいカレーになった。