トーマス・ハーディの短篇集を読み始めました。
まだ半分ほどのところですが、ひとつひとつの短編が心に響きます。
私がハーディを知ったのは、横溝正史さんの自選集「獄門島」のあとがきに出てきたからです。
横溝さんはハーディの『An Imaginative Woman』という作品に影響を受けたみたいです。
ハーディの文章はとても詩的で優しくて、読みやすく、ストーリーも複雑ではないのに、どんどん深みにはまっていく魅力を持っています。短篇集の主人公は主に女性。階級に厳しいヴィクトリア時代に生きた彼女たちが、世間の目にさらされながら辛い生活を送っていく様子が描かれています。
彼女たちの世界にすんなり入っていけたのは、翻訳者の河野一郎さんのお蔭でもありました。
河野さんはあとがきにもあるように、《読みやすく》を心がけて下さってます。
「この短篇集におさめられた作品は、わが国ではいずれも古くから英語教科書にとり上げられ、翻訳なども数多く出ているものばかりである。
~中略~
それぞれにも時代時代の雰囲気の感じられる題名で紹介されている。あえてここにまた新たな訳を出すことになったのは、おおむね今までの訳が語学者の手になり、講義口調のものが多かったため、できうるかぎり読みやすく、現代語の感覚に近くこれを紹介しなおし、より広い範囲の読者に親しんでいただこうと思ったからにほかならない。」
すっかり河野さんのファンになってしまったので、河野さんの他の作家の翻訳本も読みたくなった。
またひとつの出会いの扉が開き、嬉しい限り。
トーマス・ハーディはこんな人
1840年6月2日、イングランド、ドーチェスターの郊外小村で、石工の息子として誕生。
1928年1月11日、ドーセット州ドーチェスター(87歳没)
ハーディーが生誕1840年は和暦では、天保11年。
徳川家慶の時代。馬琴、北斎の最晩年期。遠山金四郎や広重が活躍していた頃です。
ハーディーの没年1928年は和暦でいうと、昭和3年。
イギリスの1928年といえば、階級制度の一番厳しい折。
下層階級の生まれであるハーディーにとって苦難の時代だったでしょう。
学校を終えたハーディは、ドーチェスターの建築家ジョン・ヒックスのもとで年季奉公に入り、1862年にロンドンに出て、アーサー・ブローフィールド建築事務所で働きます。
この時期には毎日のようにナショナル・ギャラリーや博物館を訪れたり、劇やオペラを観たり、数多くの詩作と読書に熱中。 ( ハーディーの母も祖母も大変な読書家だったそうです )
そんなハーディさん、ロンドンの煤煙で健康を損ね、1867年にいったん故郷に帰って小説を書き始めます。
北脇徳子さんの ( 京都精華大学の ) 論文によると
「彼はウェセックスと名付けたイギリス南部のドーセット州を中心とした田園風景を背景に、そこに生きる人たちの新旧の交代劇、異なった階級の結婚、都会と田舎の対立、帰郷者と侵入者など多くのテーマを描いた」
「石工頭の父親トマスと、料理女であった母ジェマイマの第一子のハーディは下層階級であり、彼の正規の教育は、8歳から16歳までの8年間だった」
「下層階級の上端に位置する階級の出で、生涯、労働者階級出身であること、大学教育を受けていないことを気にしていたが、知的職業人になり『貴婦人』と結婚し、彼の世代では最も著名な作家として生涯を終えた人だった」
とのことです。
短篇を読んでから、ハーディの生い立ちを知れば《なるほど》と思い、作品の理解度が増していきます。
当時の女性が気の毒なのは、身分制度や社会感がガチガチだったからだったのかと。
例えばこんなお話。
わが子ゆえに
わが子ゆえに ( The Son's Veto ) は、1891年12月に書かれた作品です。
※ 明治41年3月号の『新思潮』佐藤迷羊訳で『未亡人』、
大正年間に『寂寞』『つかね髪』としても発表されている。
1891年といえばヴィクトリア朝の真っただ中で、そんな時代のお話です。
主人公は、歳の離れた牧師の夫を亡くした未亡人です。
彼女は牧師の小間使いでした。妻を亡くした牧師が彼女を後妻とするのですが、
身分が違うことから、二人は教区を移して生活することになりました。
牧師は彼女に、自分の身分にふさわしい言葉遣いやマナーを教えていきます。
やがて息子が生れると、息子は牧師のあとをついで最高学歴まですすむことになります。
牧師が亡くなり、未亡人になった彼女にとって、息子は世界の違う遠い存在でした。
使用人に囲まれ、足を悪くした彼女は日がな一日窓の外を見て暮らします。
すると通りに、若い頃求愛された幼馴染の男が馬車で通るのを見かけます。
その内に、幼馴染と彼女は懐かしい生まれ故郷の話をするようになりました。
やがて幼馴染は彼女に求婚します。町から離れた村で一緒に八百屋をやらないか、
自分が働くから、あなたは店に座っていてくれればいい。
彼女は再婚話を息子に相談します。
息子が激怒します。
ただでさえ肩身の狭い母親なのに、下級階級の男にとつぐなんて、自分の出世の妨げになるばかりだというのです。
彼女は、何年も何年も、息子の機嫌の良い折に再婚話を持ち出します。
しかし、とうとう息子の承諾を得られることはありませんでした。
当時の牧師の階級を調べたら、
「中流階級のアッパー・ミドル。但し親や兄が貴族等の上流階級に属する人もいる。」
とのことでした。小間使いや商人は下層階級に属するので、他階級同士の結婚は難しかったでしょう。牧師が遠く離れた教区に移転したのもそういうことだったようです。
言葉遣いも、いわゆる《お里が知れる》というくらい身分によって異なるようでしたから、息子が母親に辛くあたるのも当時の社会を考えれば特別酷い息子だったということでもないのでしょう。
ハーディの短編をひとつ読むたびに、その時代背景を知りたくなりました。
『幻想を追う女』の主人公が、男名前で詞を発表する意味や、
『憂鬱な軽騎兵』の恋人がドイツ人である訳など、いろいろ。
そういえば。。。
昔、テレビで見たアニメ『エマ』もそうだったなあ。
原作漫画『エマ』 ( 後にテレビアニメやラジオ ) も、舞台は1890年ヴィクトリア朝時代でした。
当時は何気なく見ていましたが、主人公のエマ ( メイド ) とウィリアム ( 中流の上 ) が結ばれない訳も、こんなことだった。
※ 主人公のエマは、良家の家庭教師を引退してロンドンで隠遁生活を送っている老婦人・ケリーの下で使用人として教育を受けたメイド。
エマを惹かれて求愛するウィリアムは、裕福な貿易商でジェントリであるジョーンズ家の長男。爵位こそ持たないものの、名家として社交界でも一目おかれている家で厳格に育てられた。
本日の朝ごはん
シリアルが、バージョンアップ (;'∀')
家田製菓の十穀シリアルと、タマちゃんショップのしあわせシードがプラスされました。
アルペンが埋まってしもた
なんだか末恐ろしいなぁ
本日の夜ごはん
昨日に続き、チラッと見えてる焼肉プレート
今日は、ホルモンを焼きました。
これもなかなか、いいじゃないか。
ホットプレートと違って火力が強いので、またたく間に出来上がる。
ちょっとお喋りなどしていると、、、、焦げる
参考文献:
ハーディと読書するヒロインたち (1) 北脇徳子さん
階級社会イギリスの現在