Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

北村薫『六の宮の姫君』やっと読了!

 

六の宮の姫君、読了しました。

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あーーーっ、長かったです。

途中で、ジョージ・エリオットのフロス河を挟んだのも原因ですが、

もうひとつは、2/3まで読んだのをもう一度、頭から読み直したからです。

 

で、感想。

今まで読んだ「円紫さんと私」シリーズとは異質に思えました。

小説としてはどうなんでしょう、というのが正直な感想です。

芥川について書かれた膨大な情報が、小説の中にうまく落とし込めていないように思ったのです。

特に主人公の「私」と同級生の正ちゃんがドライブ旅行に行くあたりが辛かった。

 

今回は、

四年生になった「私」が、卒論に芥川龍之介について書くことになった話と、

アルバイト先の みさき書房で内定をもらった話がメインでしたが、

そのストーリーと、芥川について調べられている情報とが、ちょっと分離しているように感じました。

 

例えば、正ちゃんとのドライブで主人公の「私」は、芥川のことをとうとうと述べます。

でもそれが、あまりに深くて複雑で、頭に入ってきませんでした。

最初から読み直したのもそれが理由です。

しかし、二度読みしても結局わからなかった。

そのくらい膨大な芥川とその周辺の情報が詰め込まれているんです。

 

 

文学部の卒論がテーマの話ですから、それは深いです。

で。

途中で発想を変えました。

小説として読むのではなく、一人の人間の論文として読んでみようと。

※ この本に書かれた内容は「私」の卒論テーマでもありますが、

  同時に作者-北村薫さんの論文ともいえましょう。

 

そうしたら、どんどん頭に入ってきました。

実に面白い!

 

話の核は、

芥川龍之介が『六の宮の姫君』を書こうと思った動機についてです。

 

主人公の「私」は、みさき書房という出版社でアルバイトをすることになりました。

みさき書房 ( 架空 ) が、田崎信 ( 架空 ) の全集を出すことになり、そのアルバイト要員を探しているっていうんで「私」が駆り出されたんです。

田崎先生は80歳を超え、芥川龍之介や菊池寛とも面識がある文壇の長老。

「私」の仕事は、資料のコピーを取ったりする雑用ですが、

上司 ( 編集部の天城女史 ) が、田崎先生に合わせてくれるんです。

「私」の卒論が芥川だと知って。。。。

 

そのくだりがこちら⤵

天城さんが、右手を上げ、ちょっと眼鏡を直して注文する。

「この子、卒論で芥川をやるんだそうです。芥川龍之介の話はありませんか」

「何だ。まるで、店に物でも買いに来たようだな」

「そうおっしゃらないで」

「うん。田端の坂の上のお宅には、一回だけ行っているな。芥川さんは結構な年に見えたが、まだ三十代だったんだなあ。それで、こっちはまだ紅顔の美少年だった」

「わかります」

「どうも情けない合いの手だな」

聞いてみた。

「作品の話などは出ましたか」

「ま、それはこちらにも感心があったがね、どちらかというと外国の小説のことや、絵の話だったな。何を話しかけても、誰が話しかけても、何倍にもなって答えが返ってきたなあ」

それはもう、百人一首の《龍田の皮の錦なりけれ》をもじって《芥の川の知識なりけれ》とまでいわれた人だもの。⸺先生は続ける。

「芥川さんご自身のものについては、その流れの中でちらりと話題になっただけだ」

「何についてでしょう?」

先生は背もたれにもたれて、天井を見た。

「 ⵈⵈ 『六の宮の姫君』」

先生は、中空にその時の情景が映し出されてでもいるかのように、上を向いたまま《あれも奇妙な話だったな》とつぶやいた。そして。

「 ⵈⵈ 西洋の騎士物語から、話が流れて、誰かが芥川さんの『六の宮の姫君』のことを触れたんだ。芥川さんは銘仙の一枚小袖。煙草をくわえて、せわしなくマッチ箱を揺らしていた。それから、マッチを取りだすと火を点けて一服した。そして、いったな。《あれは玉突きだね。 ⵈⵈ いや、というよりはキャッチボールだ》

私は目を見開いてしまった。『六の宮の姫君』は題の示す通り、王朝物である。そんな言葉のおよそ不似合いな作品ではないか。

p.44

 

芥川龍之介が『六の宮の姫君』を書くのに「あれは玉突きだね。 ⵈⵈ いや、というよりはキャッチボールだ」と言っていた。

「玉突き?」「キャッチボール?」

当然「私」に火がつきます、どういう意味だろうと。

で、調べ出すんです。

 

芥川が『六の宮~』を書こうと思ったキッカケが、当時の文豪との付き合いにあるのではないか。

相手は、正宗白鳥か、佐藤春夫か、久米正雄か、谷崎潤一郎か、はたまた菊池寛か・・・

芥川が『六の宮~』を発表した当時、誰は何を書いていて、誰とはどこでどんな話をしていたか、みたいなことを調べ尽くすんです。

 

 

感服しました 卒論ってこんな作業なのかと

短大卒の私には「卒論」の経験がありません。

なので「卒論」がどんなに大変か、どんなに面白いかを知りません。

主人公の「私」は結局、周りの文豪の作品も含めて読み漁っていきます。

 

「ええ~遠回りし過ぎじゃないの?」と思うような作業です。

でも、卒論にとって大事なことなのかも知れない。

こういう作業を積み重ねることで、優れた卒業論文が完成するのかと感心しました。

 

 

勘違いしそうになったことが一つありました

今回の本を読んでいて、あまりにもワクワクしたエピソードなので、

本当の話だと勘違いしそうになりましたが、フィクションです。

みさき書房も、田崎信という作家も、実在しないものだし、

芥川龍之介が『六の宮の姫君』について「あれは玉突きだなあ」と言ったという話も、

この本の中でだけのお話。

 

実際の話だと錯覚しそうですが、主人公「私」と一緒に、古い文献を漁りまくれたのは楽しかったもの。

私には、北村薫さんや 主人公「私」の何十分の一の知識もないですが、

それでもたまーに、作品の中に知ってる話や、作品や、人物名が出てくるだけで嬉しくなったりします。

 

知識欲って、そんなことの積み重ねなのかも知れませんね。

 

 

この本の中に出てきて個人的に嬉しかった題材。

  • チェーホフの「かもめ」の話
  • 関容子さんの話
  • 眼中の人の話

 

以下は、私の蔵書。宝物のひとつです。

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本日の昼ごはん

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マルちゃん正麺 しょうゆ

デザートはみたらし餅 

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本日の夜ごはん

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にゃんこの集会場に長居した日のメニューに、焼き鳥の確立は高いのれす (;^ω^)

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地べたに座ってハタボウを抱っこしてたので、身体が冷えてしまいました。

そんな私を温めてくれたのは、豚汁でした❤

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とじ込みは、主人公の「私」を真似して探し出した資料です。

 

下記で、菊池寛『頸縊りの上人』が読めます。⤵
dl.ndl.go.jp

 

主人公「私」が、キャッチボールの相手をさぐりあてた資料がこちら⤵

base1.nijl.ac.jp