昨日の「シェークスピア全集」を何故買わなかったか無性に悔やまれます。状態が良くないと言っても、何故 3,000円を惜しんだかと。
古書も骨董 (食器) も一期一会、買い逃したら明日はないと懲りているはずなのに。。。
夜中にふとマクベスのセリフが思い出しました。
大好きな「消えろ消えろ」の場面です。
物語の終盤、城が包囲され、恐怖もなくなっていたマクベスに、夫人が亡くなったという知らせが届いた時のマクベスの名セリフですが、訳者によってどのように訳しているかが無性に知りたくなりました。
もちろん文章は、ネットで探せば手に入りますが、あの美しいブルーの表紙 ( 天地小口が金だったなあ ) をめくり、お目当ての文章を探すのは、どんなに至福の作業か想像すると、残念でなりません。
Out, out, brief candle!
Life's but a walking shadow, a poor player
That struts and frets his hour upon the stage
And then is heard no more: it is a tale
Told by an idiot, full of sound and fury,
Signifying nothing.
坪内逍遥訳
消えろ消えろ、束の間の燭火! 人生は歩いてゐる影たるに過ぎん 、只一時、舞臺の上で、ぎっくりばったりをやって、 やがて最早《もう》噂もされなくなる慘めな俳優だ、白癡《ばか》が話す話だ、騷ぎも意氣込みも甚《えら》いが、 たわいもないものだ。……
福田恆存訳
消えろ、消えろ、つかの間の燈し火! 人の生涯は動きまわる影に過ぎぬ。あわれな役者だ、ほんの自分の出番のときだけ、舞台の上で、みえを切ったり、喚いたり、そしてとどのつまりは消えてなくなる。白痴のおしゃべり同然、がやがやわやわや、すさまじいばかり、何のとりとめもありはせぬ
小田島雄志訳
消えろ、消えろ、つかの間の灯火(ともしび)!人生は歩きまわる影法師、あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても、出場(でば)が終われば消えてしまう。白痴(はくち)のしゃべる物語だ、わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、意味はなに一つありはしない。
松岡和子訳
消えろ、消えろ、束の間の灯火! 人生はたかが歩く影、哀れな役者だ、 出場のあいだは舞台で大見得を切っても 袖へ入ればそれきりだ。白痴の喋る物語、たけり狂うわめき声ばかり、 筋の通った意味などない。
ワタシが観たマクベスで印象深いのが、江守さんと幸四郎さんのマクベス。
●1989年6月サンシャイン劇場
演出:ジャイルス・ブロック
訳:小田島雄志
出演:マクベス/江守徹、マクベス夫人/麻実れい、魔女/沢たまき、魔女/秋川リサ、魔女の馬の脚/堤真一ほか
●1996年10月 銀座セゾン劇場
演出:デヴィッド・ルヴォー
訳:松岡和子
出演:マクベス/松本幸四郎、マクベス夫人/佐藤オリエ、マクダフ/堤真一、バンクォー/池田成志ほか
「消えろ消えろ」のシーンは、断然小田島訳の方が好きだったなあ。
もちろん江守さんの台詞が凄かったということもあるけれど。。。
でも、小田島さんの「消えろ消えろ」を、覚えているのは、言葉の流れがスムーズだからかも知れない。