松本清張 著『入江の記憶』読了

初出誌:「小説新潮」1967年 ( 昭和42年 ) 10月
新潮文庫「死の枝」 1974年 ( 昭和49年 ) 12月18日発行に所収
今回 私は、新潮文庫「松本清張傑作選 戦い続けた男の素顔 宮部みゆきセレクション」 2013年 ( 平成25年 ) 03月28日発行に所収で読んだ。
【内容】
義妹と一緒に故郷に帰ってきた ( 不倫旅行 ) 男の回想から始まる。

イメージ写真 https://visittomonoura.com/2020/01/869/
より借用
男はその入江の町で両親と住んでいたが、子供心の記憶では一時期 叔母 ( 母の妹 ) が同居している。母が留守の間に父がその叔母を打擲している場面を目撃し、その後 叔母は二階で寝込んでいる。母は息子に云う「叔母さんが病気になったのを誰にも云うんじゃないぞな。もし云うと、巡査さんがおとっつぁんを縛りにくるけんの」
そんなことを思い出した男は、義妹と旅館に帰る。
だがしかし。
蜜月の不倫旅行かと思っているとそうではない。
男が、疎ましくなった義妹を殺害する目的の旅行だった。
これがラストの文章。ネタバレです⤵
私は、傍に眠っている明子に行動を起こした、おとっつぁん、と私は心の中で父に云っていた。あなたのした通りのことを息子もしているのだ、と。
私の妻も、私のアリバイを工作してくれているはずである。激情的な明子からの私の身を衛るために。そして、母が父に協力したように。⸻
実はこの、父が叔母を打擲し、母がその父を庇うというエピソードは他の作品にも使われている。
同じ本に収録されている『流れの中に』がそれで、こちらの方は殺人はないが、
『入江の記憶』と全く同じ話とほぼ同じセリフが出て来る。
突然、父が叔母の髪を掴んで殴りかけた。
~中略~
宗平の眼に見えたのは、その長い髪を片手にくるくると撒きつけた父が、叔母を畳の上に押しつけて、何かで殴っている姿だった。むろん、宗平は声をあげて泣いていたことと思う。
そのことだけが、古い写真の中から切り抜きしたように、未だにはっきりと印象に残っている。つづいて、そのあとの出来事もぼんやりした記憶の中にある。それは、今から考えると屋根裏みたいな低い二階だったが、そこに父から殴打された叔母が寝かされているのだ。これははっきりしているが、母がおろおろして二階から下の往還をのぞき、しきりに何か気遣っていた。このとき、宗平は母からこんなことを聞かされた。
「おばさんのことは誰にも他人に云うなよ。巡査さんがくるけんのう」
p.261
著者はこの短編集の中に、実父の出生に似たエピソードを使った短編を3本書いている。『夜が怕い』『父系の指』『暗線』がそれだ。
Wikipediaなどで調べても実父が養子に出されたことがつまびらかに書かれているので3作はほぼ私小説的作品だといって間違いない。
また『河西電気出張所』『泥灰地』は著者が10代後半で給仕として電気会社に勤めていたことと一致する。
それでは今回の『入江の記憶』『流れの中に』はどうかというと、作品の中の父親像が著者の実父を彷彿させるところがあるものの、著者の母方の叔母がいたことは知られておらず、従って父が叔母と懇意にしていたり乱暴を働いたという話は伺えない。
よって今回の2作はフィクションと思えるが、幼少の時にこれに類する鮮烈な記憶があるようにも思える作品だった。
いづれにしても前回感じたように、松本清張の書くものはどこか陰鬱で、身勝手な男の生きざまが描かれたものが多いという思いを強くした。
『流れの中に』
初出誌:「小説中央公論」1961年 ( 昭和36年 ) 10月号
( 旧題『流れ』 )
新潮文庫「憎悪の依頼」 1982年 ( 昭和57年 ) 9月25日発行に所収
新潮文庫「松本清張傑作選 戦い続けた男の素顔 宮部みゆきセレクション」 2013年 ( 平成25年 ) 03月28日発行に所収
2025年10月12日 昼ごはん


2025年10月12日 夜ごはん
ちょっと先のスーパーまで行ったら、美味しそうなマグロの刺身があったので購入。
これで680円とお安いのに美味しかったです。


〆にパン

ハム、サラダ菜、チーズ、韓国海苔をはさみました
